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詩作品群 第2章

『月の涙』
音もなく降る雪の夜
寂しい月の涙ほろん

カンコロカラーン

月の涙は地に落ちぬ
なぜならそれは哀しい涙
とわに落ちぬ悲しみの涙

夜が明ける
涙は渇いて姿消す
そしてまた
寂しい寂しい夜が来る

月の涙は今日もどこかで
カンコロカラーン
誰かの心を包み込む
悲しみが地に落ちぬように


『砂漠の涙』
砂漠に涙が光るという
地の底から流れ出す
きれいなきれいな真白な涙
乾いた砂漠に流れては
瞬く間もなく消えて行く

汚れることなく流れては
地表を知らず消えて行く
砂漠の涙は何ゆえに
地表に現れ消えて行く
悲しみも何も知らないうちに

午前三時のピューリタント
何もかもが静けさを取り戻した午前三時
静寂に溶け込み、私が私のもとにやって来る。
束の間の自分を取り戻す。
あふれる涙。
私の中にもまだ私らしさがあった事に驚愕し、動揺する。
常に何かと同化して生きて行く。
常に自分を何かに置き換え生きて行く。
束の間の自分は、束の間の珈琲と同化する。
あの湯気の向こう側に、やりきれない明日を見つめながら。


百円の思ひ出


わずか百円
思い出の傘
傘の下には水溜り
二人の顔が映り行く

波紋の広がる水溜り
二人の上には百円の傘
壊れたとても思い出残る

二人で揃えた家の品
どれもこれも百円ばかり
壊れたとても捨てられぬ

百円たりとて思い出百倍
思い出捨てる気になれぬ

捨てて、捨てて、捨てて行く
形あるもの捨てて行く
壊れた傘など平気で捨てる
次の雨には新しい傘
わずか百円
新しい傘

思い出ばかりが一人歩き

恥ずべき姿
「俺は自分を捨てたよ」と言いつつ、しっかりとそこにいる事を知る自分


恋愛倒錯装置
そこにある状態を恋愛と思うなかれ。
恋は移ろい行くもの。
硝子に映る二人はありのままを錯覚する。
恋の幻影はそれを透過して行く事を露知らず...。

『白き傘の過ぎ行きし』
真白き傘の過ぎ行きし
その傘の下涼しげに
見え隠れする君の顔
我が恋の行く末は
日傘の陰と空の青
甘く切なく見え隠れ

『四角く区切られた合成恋愛』
液晶が溶け合い共鳴し行く
彩られた縁取りにより
あなたの波長が画面で溶け合う
実態なき恋心により
虚無的恋愛が空気のどこかで響き合う

今日もこの空の片隅で
振り子のような虚空恋愛
来ては返して
返しては来て

実存する恋愛は
その果てなるを目指して進む
虚空なる恋愛たりとて……

液晶画面に並んだ記号
言葉も記号となり行きて
恋は単なる象徴に……

今日も空気のどこかにて
記号の恋が出会い分かれる

『コンビナートの涙』
あなたの陽物から零れる白濁流
私は一筋の涙を零す
喜びの涙であり
永遠に交わることのない
悲しみの涙

壁一枚により遮られたあなたの陽物
あなたの体流は私には永遠に届かない
いえ、届くことのあってはならない
永遠に壊すことのできない
薄く、厚い壁
あなたの体流は本流にあるべきであり
私は仮の宿り

あなたの陽物からは
今日も交わることのない白濁流が零れ出る
せめて私はそれを全身で受け止める
あなたは美しく光る
私は鈍色の悲しい光を放つ

零れる涙
あなたの白濁流に溶け込み
淡く光る

この一点に凝縮された瞬間に
せめて私はあなたと溶け合い
交わることのない交わりを永遠にしたい

今日も明日も明後日も
私は鈍色の涙で枕を濡らす

『五月の散り行く狂おしい息吹に』
何もかもなくなったこの場所にも
タンポポだけは咲いていた
ふと触れると
タンポポは散り散りに飛んで行った
軽く小柄かに
風に乗り飛んで行った

何もかもタンポポであればいいのに
根無し草となり
自由気ままにどこかに飛んで行く
降り立った場所で
気ままに新たな生活を始める
以前の生活などどこ吹く風
新たな場所で新たな息吹を育み
自由気ままに過去を捨てる

狂おしいまでの郷愁は
過去との決別により終結を迎える
けれど狂おしいまでの郷愁に
私達は帰結せざるをえない...

『反対の雨』
反対の雨が降っている
天に向かいて降っている
私の涙もあの空で
きれいにきれいに浄化され
真白な雲になったなら
どれだけ気持ちが落ち着くか

涙が雲になったなら
空は青くあるだろか

反対の雨はいつの間に
降る事をやめたのか

悲しみ広がる青空に
真白き月が顔を出す
悲しみに濡れる青空に
月の涙が零れ出す

反対の星が降っている
銀河の彼方へ降っている

私の零した悲しみの
天に振りたる悲しみの雨
月の涙と溶け合って
銀河の彼方へ降り注ぐ

『現存する最果ての記憶に』
何ものにも支配されない透明な記憶
ある日水底へと消えて行った私のあの記憶は
水の中の引き出しに閉まっておこう
やがて水面に顔を出し
誰かがそれを開けたとて
水の記憶は眩いばかりで
決して視覚に触れるまい
あの、記憶の底に埋もれて行った私の記憶は
映らぬ水へと同化した
届かぬ底へと降下した
もう私にも分かるまい

『鈍色鏡』
何も移らぬ鈍色の鏡がありました
もはや鏡とは言えないのかもしれません
ぼんやりと、私の影が映ります
どんなに顔を歪めても
どんなに近くに寄ってみても
そこに映るのは
ただ、ただ私の顔の影
鈍色鏡は優しいです
苦しむ私を映しません
鈍色鏡は冷たいです
楽しい私も映しません
ただ、ただそこに映るのは
私と思しき私の輪郭
鈍色鏡は思い出鏡
きれいな記憶を閉じ込めた
封印された、記憶の鏡

『掏りかえられた水色の季節』
青がどんどん浄化され
水色の季節が広がって行く
視界に広がる風景は
透明感を伴って向こう側に透過されて行く

『海辺のAustralopethicus』
アウストラロピテクスは考えた
いつかこの海を渡り、見知らぬ誰かと交流できるということを

彼は信じる
自分にできない事などないということを

彼の自信は海を越え、現代の私達にまで訪れた
しかし私達は、この自信を、過信に転化してはいないか?
私達にできないことなど何一つないというふうに

今私達に必要なのは
できないことなど何一つないということを打ち消す
三重否定の勇気だ

もはや私達は
アウストラロピテクスではいられない

『幸先の良い朝』
幸先の良い朝がきた
ベッドからふわりと私を持ち上げる
私は何の躊躇いもなくすっと地面に足を降ろす
地面についた足の感触が心地良い

幸先の良い朝は私を誘う
これから始まる一日という知らない世界へ

世界はどこからともなく始まっている
私達の知らないところで

幸先の良い朝に巡り会えた人は幸せだ
今日も何の躊躇いもなく眠りから抜け出すことができる。

起きるか、起こされるか
未知に向かうか、時の過ぎ行くのを待つか

否応なしに時は未来に向かう

私達は、予め未来に向かう事を課せられた存在だ
幸先の良い朝が訪れてくれるのをただ待つだけでいいのかもしれない

案外人生なんて、早々幸先の良い朝なんて訪れないものなのかもしれない
しかし私達は、今宵も期待に胸膨らませて安らかなベッドへと向かう

そうだ、何も考えなくても良いんだ
いずれにせよ、どんな形であれ朝は訪れる

私達は少し、惰眠を貪り過ぎたようだ

『ネガフィルム』
そこはかとなく美しい青空に
切なさを吸い取るその青空に
僕はネガフィルムを投げつけた

『労働マシーン』
僕はロボットになる
機械になる
労働マシーン
感情を持つのは壊れた時だけ
束の間の人間に戻る
休息なんてありはしない
ひたすら働く
そして壊れる
人間に戻る
何の為に働くか?
ただ金の為だけだ
それ以外何もない
僕はロボットになった
機械になった
労働マシーン

『悲しい涙』
女性の涙は悲しいです
切なく心に刺さります
涙が硝子の破片となりて

全ては私が悪いのです
あなたに罪はありません
そうさせたのは私の弱さ
愚かな私の存在です

もう泣くのはおよしなさい
あなたに罪はありません……

『雪の音』
ゆきのおとはきこえない
だけどきこえるひとにはわかるおと
やさしいやさしいゆきのおと
すやすやねむるゆきのおと
まっしろなただまっしろなせつげんに
ゆきのおとはひびくのです

ゆきのおとはさらさらと
しずかにしずかにひびきます
せつないせつないゆきのおと
おもいでのなかにねむるおと
まっしろなただまっしろなおそらから
ゆきのおとはひびくのです

『硝子の涙』
一粒の塊となった涙が零れ落ちる
地に落ちてはパリンと割れる
砕け散った涙の上を
今日も何気ない顔をして日常は通り過ぎる
日常に踏み躙られた硝子の涙は
日常から流れ落ちる血によって真っ赤に染まる
けれど日常は
その痛みも感じず何気なく通り過ぎる
もう流れ落ちる赤い血には
切なさも悲しみも何もかも通わなくなってしまった
時の流れは何気なく過ぎて行ってしまう
今日もまた何処かで
硝子の涙に滴り落ちる赤い赤い血があるというのに

『サヨナラできぬ切なさに』
いい加減な魂に
真面目に生きてるフリを注ぎ込む
雑多な魂は何もかもが煩わしい
けだるい日々は繰り返す
起きては寝て、起きては寝て
ただ生きるためだけに食を摂り
快楽の為だけに性を営む

機械的に生きる
僕は生きてるだけの人間だ
ただ昨日の延長の今日を生き
今日の延長の明日を生きる
そしてその繰り返し

サヨナラできぬ切なさよ
サヨナラできぬ切なさよ

昨日の今日にサヨナラできぬ切なさ
今日もただ一日が過ぎ行く

『壊れた時間』
サラサラと
流れ落ちる砂時計の時間
限りある流砂は
流れ落ちては山となり
時間の堆肥を繰り返す

メトロノームの運動に
壊れた時間を流し込む
メトロノームは混乱し
狂ったように踊りだす

砂時計の規則正しい連動に
月の涙を押し込める
砂時計は重力を失い
あらぬ方向に零れだす

サラサラカンカン
狂った時間のダンスダンス

メトロノームは砂漠の中に埋もれた
時間を失くした無限に広がる砂の中で
ただひたすらに月から零れる涙を数えた
サラサラカンカン
戻る事ない壊れた果てない時間の中で

『幻の涙』
海に光る、幻の涙
誰の涙か、波間に漂う
波の間に間に隠れて漂う
誰が最初に流した涙か
大海原に流れ着く
果たしてこれを見る者は
人魚の涙と見間違う
人魚の涙は虚飾の涙
人の心をまどろわす

月夜の闇に零れ出た
人目はばかる幻の涙
偽りのない、真実の涙
今宵も波間に漂うて
人目に触れず
人知れず泣く
月下の海に飲み込まれ
誰の涙か知らず漂う

『真っ直ぐな意志』
立方体の角に交わる三本の直線
逃げる事無く交わらねばならぬ宿命を背負わされた三本の直線
直線は意志を持ってはいけないのでしょうか
それとも真っ直ぐな意志は変える事が出来ないものなのでしょうか
果たして立方体に交わる三本の直線は、本当に交わりたいのでしょうか

『かたつむり』
黄昏色の言葉をかじった
記憶のつぶてが身体中を駆け巡る
僕は記憶と同化してしまった

目の前を、味気ない、けれど美しいかたつむりが過ぎて行った
疲れ切った潤いのない顔をして

しばらくの間、僕は彼女と同居する事になった

僕は宿借りする間、彼女に少しずつ黄昏色の言葉を与えた
彼女はそれを美味しそうにかじった
しばらく雨降りが続き、僕達は渦巻きの中に佇んだ

何故だろう、楽しい楽しい時間だけが過ぎて行った
僕の手元にある黄昏色の言葉はもうとっくになくなってしまっていた
僕達はもう、言葉などどうでもよくなっていた

セピア色に染まった彼女の渦巻きを、僕はさまよい始めた
言葉を失った僕は、記憶の残像だけを追い求める
はてどない彼女の渦巻きの中で
僕は彼女の血流に運ばれるが如く、彷徨した
やがて潤いを取り戻した彼女の中から
ぬめぬめとした、美しい思い出が這い出てきた

僕は彼女にサヨナラしなければいけなくなった
思い出が這い出た時、それは別れの時だと彼女は教えてくれた

彼女の殻から這い出ると、渇き切った緑が広がっていた

僕は美しい美しい思い出を背負い
眼前に広がる渇いた緑の中にポツンと放たれていた

ポケットの中には、黄昏色の言葉がまだ残っていた

『未完成』
ある日、空が変わった
空気が変わった
内在する包括力が崩れた
幻想を映す鏡が割れた
僕達は、無頼の荒野に野放しにされた
もがいてももがききれない虚無の砂丘が広がった
あてどなく広がる空間に、僕達は途方にくれた

『現在の視点』
ただ良かったと思う日々を追い求めてはいないか
過ぎ去りし日に自分を追い求めてはいないか
過ぎ去りし栄華は現在に、未来に、決してなき事を忘るべからず
大切なのはこれから築き上げる己自身なのだ
向上心なき現在から、未来を決して覗こうとしてはいけない

『隙間からのメッセージ』
壊れかけた空気の隙間から凍えるような快楽が顔を出し
さびしげな快楽は有機的な万能物を背負いそそくさと出て行った
来る日も来る日も快楽は訪れそしていつも寂しげに白い息を溜息と共に吐き出しそそくさと出て行った
後に残った僕はただ、壊れかけた空気の隙間から快楽の後姿を見送り
そしてただ、その隙間にマスキングし、快楽の為だけに女を抱くのでした

『雫の涙』
雫の涙が零れる時
月はいつも病んでいた
空から見渡す星空は
辺り一面雫の涙
月の涙は病んでいた
遥か遠くに病んでいた
雫の涙が零れた時に
とうに何かが壊れかけてた

『盗んだもの』
そんな大切なものとはつゆ知らず
あなたの心を盗んでしまいました
あとで事の重大さに気づいても
どうする事もできません

『のどかな恋愛』
女の人に恋をしました
がんじがらめの生活の中
女の人に恋をしました
彼女は僕を好きと言う
僕もまた彼女が好きでした
のどかなのどかな恋でした
ただ好きなだけの恋でした
けど、ほんとにほんとうに恋なのでした

『ベッド一台分の思い出』
あなたを夢見る思い出は
いつもベッドの記憶だけ
私はそこから出られない
あなたは私を閉じ込める

あなたを夢見たその日から
あなたは過去の人となる
私はベッドに横たわり
あなたを夢見て抱かれるの

切ない肉体(カラダ)の記憶です
切ない肉体(カラダ)の記憶です

ベッドの上に横たわる
指のきれいなあなたです

『世界の名車と旅をして』
ランボルギーニで旅をした
遠い世界を旅をした
道行く人は振り返る
世界の名車に憧れて

トライアンフで旅をした
道なき道を旅をした
吐き出す煙はすぐ遠く
世界の名車に追いつけず

世界の名車と旅をして
ようやく私は気がついた
旅は私がするもので
主役はあくまで私だと

明日から私は旅をする
名車も勝てぬ二つの足で

『欠けている何かを探すというどうしようもない行為』
何かが欠けている
それは分かっているが
それが何か分からない
分からないがどうしようもなく
追求してしまう
求道者の行為とは
あらかじめ背負われた
人間の運命なのかもしれない


『憧れ』
恋焦がれても待ち焦がれても
心はなぜか隙間風
あの娘の面影忘られぬ
あの日の恋の憧れは
記憶の彼方でかくれんぼ
もう憧れは抱くまい

『湯気の彼方』
そこには
あの日と同じ
銀色の月と
硝子のような雪が
輝いておりました

一杯の珈琲を口に運ぶ
湯気が目の前で踊る

その向こうに汽車が走っておりました
私が花束を贈ったあの「サヨナラ機関車」です
辺りは一面雪野原
硝子のような雪野原

その雪野原を
汽車は走って行きました
私の遠い
思い出達を乗せて
遠い遠い
記憶の森の遥か彼方へ

珈琲をそっと離す

するとただそこには
あの日と同じ
銀色の月と
硝子のような雪が
きれいにきれいに輝いているのでした

『記憶の涙の物語』
遠い海の向こうから
夕陽の橋がかかります
夕陽の橋は寂しいです
思い出達の帰る橋
思い出達は星になり
涙となって零れます

遠い夜空の向こうから
星の涙が零れます
星の涙は悲しいです
願えど叶わぬ悲しい涙
星の涙は塵になり
銀河の彼方へ消えて行きます

幾度記憶をたどれども
行き着く先はあなたです
私の記憶はあなたの記憶
亡郷し行く記憶です
私の涙が見えますか?
あなたの涙は私の涙
今では記憶の涙です

『平行四辺形な思い出』
もし、互いに角度を織り成す接点がなければ
永遠に同じ斜めの角度でずっとずっとニ方向に進む
二対の平行線
もしそれがねじれの位置関係にあるならば
真上から見たその平行四辺形は
永遠に交わる事のない
本当に美しい、美しい
思い出の姿なのかもしれない

『向上論』
物質的豊かさだけが
迎合された世の中が
終わりを告げました
あなたの目の前には
広大な、一見豊饒とも見える
枯渇した平面が広がります
あなたは何かを作り出さなければいけません
その平面上に残された
豊かに枯渇したものなど目もくれず
新しい何かを作り出すのです
既成のものなど放っておけばいいのです
目に映る全てと記憶に刻まれた既成概念など
全ては進化するなどと考えない方がいいのです
新しい何かが生まれるのです
その父たり、母たりうるのは
あなたです

『白が如く赤の判定』
ある男は言いました
私に罪はありません
みんなあいつのせいなんです
あいつは彼に言いました
罪は全部かぶります
晴れて彼の背後には
無垢なる白と真赤な嘘
みんなは白を信じました
真赤な嘘に塗りつぶされた
清純無垢なる真赤な白を

『永遠に終わる事のない子守唄』
鳥取砂丘に寝そべった
降るが如く星が瞬いた
波の音が聞こえる
優しい優しいさざ波だ
目を閉じる
耳をふさぐ
僕は永遠に終わる事のない
子守唄を手に入れた

『フィルターでろ過されたジレンマのジレンマ』
何もつくらなくていいのだ
ありのままでいいのだ
生まれもって自分は自分であり
無理をして生きてはいけない
ふるいにかけられた人間だけが生き残れる世の中など
相手にしなくていい
人付き合いが下手なのは皆同じ
不器用だっていいじゃないか
あなたはフィルターにろ過されてはいけない
必死にろ過されないように生きるんだ

『永遠に帰結する事のない帰結論を帰結させる為の帰結論』
何故だ?何故だ?何故だ?を0回繰り返し
それで?それで?それで?と0回繰り返せば
自ずと答えは出てくるものだ

『四角く区切られた青空を通りすぎるトーテムポールの群達』
違う顔をした雲達が
同じような顔を装って
よそ行きの顔で
澄まして通りすぎて行く
さも意味ありげな顔を繕って
今日この窓から見る空は
昨日と同じ青なれど
この眼を過ぎるその青は
どこか昨日と違ってる
今私の目の前から
潤いのない風が過ぎて行こうとしている
どこをどうしても装えない
不器用すぎるおかしな顔をして
渇ききった潤いのない風は
今日もトーテムポールの雲達を
私の前から押して行く
この際限なく広がる平面上の
灰色乞食の群れの窓から

スローボールの可能性
どう変化するのか分からない軌道にのって
スローボールは夢を見た
かくて自分はこんなにも速くなれるという
見果てぬ夢を
スローボールの軌道には
あらゆる可能性が込められる
だがその見た夢は
豪速球
スローボールは信じてる
いつか自分が
とてつもなく速いボールになれるという事を

スマッシュビンタの絵空事
見事に決まった親父のビンタ
頬がジンジン痛み出す
スマッシュ親父は
気にもかけずに今日も朝から職安通い
職安通りは親父にビンタ
世間の視線がジンジン痛む
ところで今日は何ゆえビンタ
悪さ数えど何の事やらさっぱり解せぬ
家庭の味とは今ではいずこ
不条理通りの世の中に
家庭の中すら不条理だらけ
スマッシュビンタに込められた
親父の怒りは怒りたるか
スマッシュビンタは願いを込める
本当の怒りがまだある事を

『点に閉じ込められた果てなき宇宙の定点観測』
凝縮され行く自我の中から
永遠に集約された
果てなき繰り返しの中に繰り返しを見出すその術を観測し
かくて何事も起こらんと自らを納得せんところに
ようやく訪れるべき何かが訪れて
己の存在というものは自らに帰結し
向かうべき一点があるとするなら
その一点は実は己自身であると気づいた頃に
ようやく人生という観測は
広大な果てなき果てに向かう
ある一点の延長線上にある
定点観測だったという事に気付くのが
私という無限に錯覚する小さな私なのであった。

『そこにいるという事』
浄化された空気と浄化された人間と
浄化された思想のみが存在する。
身に纏う衣服はもう要らない。
見透かされたあなたは
高度に浄化された植物のようなものだ。
ただただきれいな空気を世に送りこむ。
存在理由なんてもう要らない。
ただそこにいるだけでいいのだ。

『乾いた涙』
私の頬の乾いた涙
幾度流せど消えて行く
私の涙はあなたの涙
雨となりては降りそそぎ
川になり行き海へと向かう
海は涙の終着駅
私の頬の乾いた涙
今日までどれだけ流したろう

『郷愁』
叫びたくなる
狂おしいまでの郷愁に自分を占領され
そこに帰る事ができないからこそ
叫びたくなる
何故私達は生命を営み
何故思い出などというものは忘れ去る事ができないのだろう
「あー」でも「ぎゃー」でも何でもいい
好きなだけ叫ばせてくれ
「……」

『さざ波』
浜辺に作った砂山を
さざ波達が崩していく
少し削ってはまた打ち返し、その繰り返しの中に
やがて山は砂に帰す
形あるものの行く末は、全てがここに凝縮され
この単純な、原始的砂遊びは
人類が忘れてはならない
謙虚さを表しているような気がしてならない

『一人歩き
言葉が一人歩きするという
思考が、思想が一人歩きするという
安穏と暮らすこの町の向こう側で争いがあるという
一体どこに行けば誰の目にも触れなくなるのだろう
ここに個は存在するのだろうか
私の考えと思っていたものが
私だけのものでもなく
誰かのものでもないという
そんなばかな事があるのだろうか
一人であるという事は、一人であるという事を意味しなくなった
その延長線上に、醜い争いが繰り返され、
個の主観と思っていたその向こう側に全体主義の罠が待ち構えていた

『0番地より』
カーテンを切り裂き入って来る鋭い陽光で目が覚めた
私の身体の隅々まで切り裂く張り詰めた鋭い光線
見透かされたように私は全てを曝け出す
切り裂かれた私の身体の全て
0番地に入る光線は、全てを捨てて無垢なる光
0番地に入る暗闇は、暗黙の中に求むもの無し
手探りさへきかぬ暗闇に、全てのものは存在し、
全てのものはまた消える
ここは0番地
陽光に切り裂かれ存在を無くしたものが集う街
ここは0番地
誰もが在りし夢見し目覚め
存在のみが浮遊する
空虚な心の終着点

『小さな若葉の物語』
大きな木の枝に今年も新芽が顔を出し始めました。
空は澄みきった五月晴れです。
芽はお陽さまの光をいっぱいに受けどんどん成長して行き
立派な若葉となりました。
やがてまわりにはたくさんの若葉が顔を出し
さやさやと活気にあふれました。
五月を過ぎ六月にもなると
葉の間にも恋が芽生えてきます。
そうなると葉はいっそう
寄り添うようにさやさやと揺れ出します。
葉の一生で一番美しい時です。
恋をした葉はつやつやと輝き
その緑をより濃くして行きます。
夏を迎え光をいっぱいに受けた葉は
その働き盛りを迎え
空気は一段と新鮮さを増します。
夕暮れ時陽が傾くと
夫婦となった葉は寄り添いあい
その疲れをお互い労わりあいます。
秋が来ました。
葉はその姿にも老いが目立つようになりました。
夫婦同士は静かに々寄り添い
ただ一日々をゆっくりと過ごすのです。
やがて冬が近づくと
葉はゆっくりとその最期を迎えます。
ある仲の良い夫婦同士は
お互いの労をねぎらいながら
ゆっくりと々一緒に落ちて行きました。
その上を
何も知らぬ人々が
ただ通り過ぎて行くのでした。

『涙』
偽りの涙を十回流すなら
本物の涙を一回流せ
同情泣きするくらいなら
その人の立場に立ち行動を起こせ
マスコミの伝える事をうのみにしてはいけない
自分自身の良識で判断できる能力を持て
偽りの演技ならサル真似と同じだ
本物の涙を一回でも流してみろ

『無気力な木』 
無気力な木が一本ありました。
何する事もなく、ただ立っているのでした。
じっと大地に根を下ろし、
ただひたすらに立ち続けるのでした。
木には、季節が来ればその意志に関係なく、
花が咲き、葉が茂り、そして……、散って行きました。

そんな無気力な木の前に、
一人の老女が立ち止まりました。
「あぁ、今年もまた顔を出したねぇ。」
よく見ると、木には小さな蕾みが顔を出し、
その開花を迎えようとしているのでした。
じっと蕾みを見つめていると、
木は自分の生命の中に、
もう一つ別の生命があるような、
不思議な気持ちになるのでした。
ただ何気なく立ち続けてきた自分の中にも、
様々な変化が起こり、
何気なく通り過ぎて行った少女も、
いつしか年を老いて変わって行く。
ただ何気なく立っていても、
確実にいろいろな事が変わって行く。

木は、変わっていなかったのはただ立っているつもりでいた自分自身だけなのだと、ようやく気がついたのでした。

『未熟な恋愛』
未熟な恋愛は旅を続ける。
みずみずしさと残酷さをもって……。

『寂しきわが身』
何も無き
住まいに寝転び
彼女待つ
金も無く
じっと佇む
アパートに
訪れるのは
新聞、瓦斯に
電気屋さん

『或る女』
或る女は言いました
騙して欲しいあなたの言葉でどこまでも
だけどそこに私はいるでしょうか
偽りの言葉の中に私はいるでしょうか

或る女は言いました
見ていたいあなたに広がる風景をどこまでも
だけどそこにあなたはいるでしょうか
夢想で膨らんだ風景の中に
あなたはいていいのでしょうか

男と女は儚くも
一つに溶け込み分離する
まるで溶け込みそうで溶けこめない
あの青空と夕焼け空の境界線のように

『暗中摸索』
ポッケの中には一匹の蟹
山でひろった一匹の蟹
蟹はポッケで何見るや
飼い慣らされ行く
自分の未来?
亡郷し行く自分の未来?
ポッケの中には一匹の蟹
突然ひろわれいずこに行くや



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